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プロフェッショナルの志事

ファッション業界を支えるメーカーや工場、職人にプロならではのこだわりの技や知識を聞いてみました

I K I J I  墨田区の老舗工場4社が世界を目指す 新しいファクトリーブランド
I K I J I  墨田区の老舗工場4社が世界を目指す 新しいファクトリーブランド

I K I J I  墨田区の老舗工場4社が世界を目指す 新しいファクトリーブランド

PROFILE

2014年8月、墨田区緑に初の常設店舗「I K I J Iストア」をオープン(写真)。カットソー、ニット、シャツ、雑貨、財布、名刺入れなどがそろう。建物は約50年前に精巧株式会社の工場としてつくられ、のちに倉庫として使われていたもの。マーク・ジェイコブス青山店などを手がける設計施工会社ディー・ブレーンがリデザインした。また片岡屏風店のふすまや、小宮畳店の畳、桃澤硝子商店のガラスや鏡など、墨田区の職人たちも協力。“ 和のモダン化”というIKIJIの世界観をあますところなく表現している。

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目指すは「すみだから世界へ」。 "江戸の粋"をモダン化し、 墨田ブランドの確立を図る
“目指すは「すみだから世界へ」。

 東京都墨田区のものづくり企業4社が集結。掲げたコンセプトは「江戸の粋・職人の心意気」、ゆえに「IKIJI」である。浮世絵師兼戯作者・山東京伝作の「面(つら)の皮梅」をブランドマークとし、ウエアにあしらわれているのは「大根とおろしがね」「お月見」など、遊び心ある江戸小紋。徹底的に江戸にこだわるデザインは、海を越えて世界に日本文化を伝える力を宿している。すみだから世界へ――「IKIJI」の発起人、精巧株式会社代表、近江誠氏の願いだ。

 「スカイツリー開業を契機に、地元で"すみだ地域ブランド戦略推進検討委員会"が立ち上がり、私はその委員になりました。活動の目的は墨田ブランドを確立すること。墨田区は歴史と伝統あるものづくりの街です。葛飾北斎もいれば江戸小紋もある。アパレル製造も金属加工も革製品製造もある。そんな墨田区ならではの資産を活用しよう、それも江戸時代のデザインをモダン化して海外に発信しようと考えたのです」(近江氏)

発端は、いわば職人の心意気。大手アパレルが進出しない"ニッチ"市場を狙うことで勝算を高めた。中小企業どうしの"協働"に着目したのも、そこに理由がある。 「精巧は65年の歴史を持つカットソー専門の会社として、国内外の有名ブランドのOEMを請け負ってきました。カットソーやポロシャツでは誰にも負けない技術を持っていますが、シャツやセーター、革物はつくれません。1社では大手にかなわない。でも墨田区には、それぞれに強みを持った会社があります。『逝きし世の面影』(渡辺京二著)にも、江戸の助け合いの精神が描かれている。江戸文化を扱うブランドだからこそ、協働するのが面白い」(近江氏)

【精巧株式会社~カットソー製造65年~】
精巧株式会社は1950年創業の老舗カットソーメーカー。国内外の有名アパレル・ブランド製品を製造する。ジャック・ニクラウスのポロシャツを日本で初めてOEM製造したことでも知られる。73年には千葉県東金市に自社工場「株式会社クチーレ」を設立。トヨタのかんばん方式を取り入れた「TSS(トヨタソーイングシステム)」を導入し、素材、企画、パターン、生産、品質管理までを本社で一括コントロールする。代表取締役の近江誠氏は2代目。商社勤務を経て80年に入社、90年社長に就任した。"1位を取れる強みを磨いて勝負する"経営戦略が持ち味。独自開発の綿糸を使い、IKIJIブランドのウエアを製作している。

ものづくり企業4社が コラボしたブランドが立ち上がる
“ものづくり企業4社が コラボしたブランドが立ち上がる

ブランディングは、委員会活動で知り合ったHAKUHODO DESIGNの永井一史氏(クリエイティブディレクター)が担当。近江氏が永井氏に思いの丈をぶつけてから半年後、前述のブランドロゴとコンセプトが完成すると、精巧株式会社と協働する3社が直ちに集められた。

 近江氏曰く「いずれも世界と勝負できる技術を持った会社」である。大手アパレルやデザイナーズブランドのニットウエアを製造するテルタ株式会社。全工程を職人の手仕事で行う革製品の株式会社二宮五郎商店。そして、シャツ専業メーカーとして70年以上の歴史を持つウィンスロップ株式会社である。近江氏の〝心意気〞に共感した3社。また、ものづくり企業の〝生き残り〞戦略としても、ブランド事業は有効に思われた。
 「シャツ縫製工場として存続する一つの手段として、ファクトリーブランドという形もあるだろうと思って参加しました。正直なところ、最初はここまで大きくなるとは思ってもみなかったですね」(ウィンスロップ株式会社代表・福田憲一郎氏)

「祖父の代からニットをつくり続けて90年。海外では『ジョン スメドレー』などのニットブランドがありセレクトショップに納めているのに、日本ではニット製造というと、いまだにアパレル会社の下請けでしかない。近江社長に声をかけてもらったのは、テルタとしてのアイデンティティを確立したいと考えていた矢先のこと。ぜひ、ということで参画しました」(テルタ株式会社専務・照田晃司氏)

 「当社は早くから革製品の自社ブランドをつくり、小売に対して直接販売するビジネスモデルを取り入れていました。社長としての私の役割は、この会社を有名にして、ものづくり企業としての基盤を強固にすること。『IKIJI』もそのために活用できます。実は和の様式美も、すでに自社ブランドに反映させていました。ですから近江社長のお考えとも、うまくマッチングすると思ったのです」(株式会社二宮五郎商店代表・二宮眞一氏)

【テルタ株式会社~メリヤス・ニットウェア製造90年~】
1923年、照田メリヤス製造所として創業。メリヤス、ニットウエア製造で90年の歴史を持つ。2 0 1 4 年、オリジナルブランドの製造・販売に特化するため株式会社テルタデザインラボを設立。「IKIJIストア」の2階に製造所を構える。「ニットは奥深い。デザインに合わせたテキスタイルづくりから始まるため、IKIJIのデザイン画が届くと、どの素材をどう編むか、1週間は頭の中でそれだけを考えっぱなしです」。もっとも難しい工程はニットの襟元を縫い付ける作業。「リンキングマシン」(写真左下)を用いるが、熟練の技を要する。「機械を動かせる人自体が少なくなっている。外注先には80歳の女性もいるぐらいです」

「ピッティ・ウオモ」に出展。 「日本の文化を感じる」との評価で 各国セレクトショップとの契約も
“「ピッティ・ウオモ」に出展。 「日本の文化を感じる」との評価で 各国セレクトショップとの契約も

 永井氏のブランドコンセプトのもと、デザイナーにはメンズブランド「ALMOND」の外山聡氏が起用された。頼もしい限りのサポート体制だが、しかし具体的なプロダクトに落とし込む過程において、試行錯誤は免れない。提案されるデザイン画一つとっても、職人たちには「これまで見たことのないようなものばかり」(照田氏)なのである。

 「足袋の留め金に使う〝こはぜ〞をシャツの袖口に使おうという案がデザイナーから出まして、実に苦戦しました。発想自体は本当にお見事、なのですが、一つ一つ全部手作業になる。当社は量産工場としての性格が強いものですから、工場は対応にとまどっていましたね(笑)」(福田氏)

 「実は、ブランドコンセプトが『江戸にこだわる』という一つのフレーズに落とし込まれたのはごく最近、今年の8月ぐらいのことなのです。僕が永井さんに『このブランドに一本筋を通すとしたら?』と聞くとこのフレーズが出てきた。それからは4社のベクトルを合わせやすくなりましたね。例えばウエアを裏返すと北斎漫画が描かれている。わざわざ隠れているところを工夫するのが江戸の粋。細かい部分ですが、いちいち『ああしろこうしろ』と言われなくても理解できるようになった」(二宮氏)

 かくして2012年4月に誕生した「IKIJI」ブランドは、4社の想像を超える反響をもたらした。当初の販路は銀座三越、藤巻百貨店、スカイツリー・ソラマチや自社ECサイトなど。評判は上々だが、「まだ全国に商品が行き渡るほどではない」(近江氏)。

彼らを何より喜ばせたのは、海外における歓迎ぶりだ。14年8月、墨田区の精巧本社そばに直営店「IKIJIストア」をオープン、ブランドの世界観を発信する拠点とした。直後、世界最大級のメンズファッション展示会「ピッティ・ウオモ」のアンバサダーから高い評価をされる。そして15年1月、「ピッティ・ウオモ」に出展すると、近江氏が「休憩もとれないほどの」賑わいに。プレスやバイヤーが展示ブースに殺到したのだ。彼らは口を揃えて言った。「ブランドコンセプトがしっかりあり、それが商品に落とし込まれていて、さらに商品の品質が高い。何より日本の文化が伝わってくる」。まさに近江氏の思惑どおり、極めてストレートな評価だといえるだろう。
 「ピッティ・ウオモ」出展後も快進撃が続く。フランスの「コレット」、イタリアの「コルソコモ」、ロサンゼルスの「エイチ・ロレンツォ」など、各国レクトショップとの契約が相次いだ。「ベロアのガウンが16万円で販売されているショップもある。僕たちの想像を超えた動きになっている」(近江氏)という。「IKIJI」が評価されることでメーカー4社の知名度も向上しており、本業における海外ブランドとのOEM契約も期待されるところだ。

【株式会社二宮五郎商店~革小物製造70年~】
1946年創業の老舗レザーメーカー。世界的ブランドのOEMからオリジナルアイテムまでを生み出している。カバンや財布、小物など多品種を扱うため、製造所はミシンほか加工・製造機械が溢れている。裁断から仕上げに至るまで、一人の職人が全工程を手がけるのも同社の特徴だ。また、若手の採用、育成に積極的に取り組み、熟練職人たちの匠の技の継承にも力を入れている。

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